清水義範

 「国語入試問題必勝法」「蕎麦ときしめん」にはじまるパスティーシュ作家。フィネガンズ・ウェイクまでネタにしています。短編の方で有名ですが、この人の書く長編が好きです。

「神々の午睡」

 現実の3大宗教をもとに架空の宗教史を書いた2冊にわたる長編。宗教史というのはそれ自体面白いと思うのですが、清水義範の手にかかると見事なエンターテイメントになっています。とくに評価しているのは、日本人の、宗教的とは言い難い信仰スタイルを肯定的に観察しているくだり。清水義範の平凡な人を見つめる目は温かいからね。

「虚構市立不条理中学校」

 どこかねじの外れてしまった学校で、ねじの外れた教師たちと、生徒の父が議論をする。というのが話のほとんどをしめる。作者いわく「ギロン・アクション小説」。もとは全2巻だったのだが、文庫版では1冊で出ている。教師必読の1冊。

 話としても面白いのだが、ポイントは小説上で提示される問いかけの深刻さ。教育とは何か、という問いにあらゆる角度から問いを投げかけているこの小説に、現在の教育学では答えを全く出せない。

 清水義範の小説としては珍しく、舞台である「学校」に何ら希望的な視点が見いだせないまま終わってしまっていることも明記しておこう。

「学問のススメ」

 浪人生の浪人生活を書いたいわゆる青春小説。全3冊。実際の受験についてかなり詳しく書かれているし、出来事や登場人物がみんなリアリティがあっていいです。「受験制度にいろいろ思うことはあるし、それは正しいことなんだけど、とりあえず受験をする身としては頑張るしかない」というのには全く同感。(ただし。僕がストイックな受験生だったか、というのは別問題だし、ストイックであることが「頑張ること」なのかはもっと別問題。ね。)

 始めて読んだのは高校生のころだったんだけど、「浪人も悪くないな」なんて思ってしまいましたね。結局僕も1年浪人したのですが、本ばっかり読んでいたなあ。異質な浪人でした。はたから見ると異論もあったようですが、世間のことを何も気にせず、ひたすら本を読んでいた1年間は、本当に充実していて楽しかったな。

 しっかし主人公、けなげですねえ。うーん、あの程度で壊れちゃうし(以下、自爆モードにて省略)。大道寺がいい奴すぎる。それがこの作者の持ち味であるのは確かです。

「躁鬱探偵シリーズ」

 躁人間不破泰平と鬱人間朱雀秀介のコンビが探偵役の推理小説。「H殺人事件」から「W殺人事件」まで「アルファベット+殺人事件」のタイトルで全5冊。最大の魅力は推理の組み立て方。関係者の心理の動きから事件の真相に迫るスタイルは今でも新鮮。「警察の有能さ」を前提に推理が進む、というのも斬新だったなあ。探偵二人のキャラクターも魅力。

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