あさきゆめみし(大和和紀)

 講談社より単行本が全13巻。豪華特製本と、ふつうの特製本もあります。

 源氏物語の漫画版。僕は源氏物語の現代語訳が好きで、いろいろな訳を読んでいます。この源氏物語最大の特徴と思われるのは、登場人物に対する温かい視点だと思います。一般的に源氏物語では、作者のキャラクターに対する視点は温かいものでないと思います。それがこの漫画では、たとえば末摘花に対しても彼女に「純粋さ」という属性をあて、そこに「醜さ」以外の何かを見いだそうとしているように思えます。紫の上にしても、果たして彼女は幸せだったのか?というのは難しい問いではありますが、この本でははっきりと「幸せだった」と明言してくれます。

 一番好きなシーンはなんといっても10巻のラストです。生への賛歌、というのか、「生きているって素晴らしい」ということがひしひしと伝わってきます。

 それ以降、テンションが落ちるのは、それが源氏物語であるのは必然だと思う。源氏物語という制約の中で、13巻のラスト、それなりの感動があるのはみごと。

 私自身の源氏物語の解釈としては、光源氏の光なき後、世の中は寂しくなって、何もない、というのが宇治十条だと思っています。つまり、「浮船」が尼になってしまう、ということは空虚さの象徴だと解釈している。そこには、入水後の「死」すらない。

 と、よけいなところまで話がいったところで、話を切りましょう。

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