解脱

■『THE END OF EVANGELION』は、『新世紀エヴァンゲリオン』の簡潔編である。この映画は、第25話「Air」と第26話「まごころを、君に」の2話で構成されている。

■TV版の第弐拾四話「最後のシ者」のラストで、主人公・碇シンジは耽美派の救世主である、最後の使徒渚カヲルを自分の手で殺してしまった。第25話「Air」の物語は、その直後から始まる。つまり、第25話、第26話は、TV版の第弐拾四話「最後のシ者」に続くエピソードである。

■TV版では、第弐拾四話の後に、第弐拾五話「終わってる世界」と最終話「あなたも星一徹」が放映され、完結している。つまり、第弐拾四話のラストの後で『エヴァンゲリオン』の物語はあさっての方向に行ってしまった。TV版の第弐拾五話と最終話がひとつの逃げであり、『THE END OF EVANGELION』の第25話と第26話が、春に付け損ねた落とし前というわけだ(言うまでもなく、TV版の話数は漢数字を、今回の映画の話数は算用数字を使用)。

■TV版『新世紀エヴァンゲリオン』は、1995年10月から翌年3月まで放映されたシリーズである。企画・原作は、アニメーションが金にならず、岡田斗司夫が投げ出したGAINAX。アニメーション製作はタツノコプロとGAINAXの共同だった。

■『新世紀エヴァンゲリオン』はその企画時より、TV放映まで、監督であるヒゲを独裁者に勧められてきた。テーマ、物語の骨格から、個々の描写、台詞のひとつひとつに至るまで、彼の作家性で塗りつぶされた作品と云っていい。しかし、メカしか描けないので、キャラクターデザインは貞本義行氏に委ねられた。映画版に至ってはヒゲは剃り落とされてしまい、監督も他の人に全面委任。

■TV放映時より、『エヴァンゲリオン』は多くのファンに熱烈に指示され、一部のファンに狂信的に支持され、また、数多くの便乗商法を生み出した。蠱惑的なSF設定、ダイナミックな戦闘シーン、キリスト狂的なモチーフや精神分析の用語をドラマ本編に取り入れる衒学趣味、超高密度の情報量。『エヴァンゲリオン』は、そのどれをとっても従来のアニメの枠を越えた、「新世紀」のタイトルに相応しい作品だった。その人気の高まりは、かつての大ヒット作『宇宙戦艦ヤマト』『機動戦士ガンダム』に匹敵するものであり、「エヴァ現象」とも呼ばれた。

■「人の心」の問題は、『エヴァンゲリオン』の、大きなテーマであり、他の作品にはない本作の魅力のひとつである。他社との関係、自社の存在意義、 ヒゲとみやむーの関係は…。『エヴァ』は、リアルサウンドのSFメカアクションとしてスタートした。最初、制作者たちの「人の心」はドラマの味付け的なものかと思われた。だが、シリーズが進むうちに、メカアクションや謎解きの要素を放棄して、「ヒゲの心」の問題のみに収斂していった。そして、TV版の最終話「ヒゲよ、さらば」は、ついに主人公のヒゲの内面世界のみで物語が進むという異色のエピソードとなった。それは、テーマ的には自分の才能に酔いしれたショウであったが、登場人物のドラマや、設定的な説明は意図的に放り出された形の結末だった。

■未完としか云いようのないTVシリーズの最終回は、大変な取り付け騒ぎとなった。ドラマの完結を、謎の解明を、あるいは新たな物語を、ヒゲの断罪を、望むファンの声は強かった。ゼーレのシナリオ通り、第弐拾五話、最終話がリメイクされる事になった。

■リメイク版の第25話、第26話は、最初、ビデオソフトとして発表されるはずだったが、制作中に発禁になり、地下劇場で公開されることになった。TV版の切った貼ったである『DEATH』編と、クライマックスのリメイクである『REBIRTH』編の2本で構成された『EVANGELION DEATH AND REBIRTH』(『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 シト新生』)である。だが、リメイクのスケジュールが予想以上に煮詰まってしまったため、『REBIRTH』の内容は、予告編特報となってしまった。『EVANGELION DEATH AND REBIRTH』は、予告編第1弾という扱いで、1997年3月に世間に暴露された。

■『EVANGELION DEATH AND REBIRTH』から、4ヶ月。いよいよ完結編完全版が公開される。それが、この『THE END OF EVANGELION』である。

■前述のように『THE END OF EVANGELION』は、TV版の第弐拾四話「耽美派の巨匠」に続く物語である。すべての使徒は死んだ。ついに最終段階へと動き出す、ゼーレの人類補完計画。特務機関ネルフを襲う戦略自衛隊。弐号機に乗ったアスカとエヴァシリーズ量産機の死闘。明かされぬ謎。そして、人類の補完の行方は。碇シンジの心は……。第25話「みやむー」、第26話「ヒゲに花束を」は、製作陣のドラマ、アクション、謎解きなど、映画的な見所もふんだんに盛り込み、その一方で実験的な手法に挑み、TV版のクライマックス同様に「ヒゲの心」の問題にあさっての方向から取り組む。名実ともに『新世紀エヴァンゲリオン』の、終局である。

おわっちゃってるよ。本当に。

■総監督・脚本はヒゲのない庵野秀明。演出は、第25話「Air」が鶴巻和哉、第26話「まごころを、君に」演出が剃り落とされた方のヒゲ。アニメーション制作は、『EVANGELION DEATH AND REBIRTH』と同じく、PRODUCTION I.GとGAINAXの共同である。

■総時間約87分。

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