第7回 君も工学部2号館の廊下で寝てみよう。(97.11)

 そんな体験をしたのも、もう4年も前の話。懐かしいことだ。この体験には僕のもろさが詰まっている。うんうん。

 と、ひとり納得してもしょうがないので、語ってみましょう。

 あれは4年前の冬でした。粉雪舞い散る本郷の駅。しずしずと歩く受験生。その中を歩くのは1年ぶりだと感慨に耽りつつ、歩いていくと、去年も見た光景が。

 なんか脚色はいってます。

 各予備校の講師たちが、配っていたのは合格鉛筆。ああいうものに勇気づけられる人もいることはいるので、そっとしといてあげましょう。

 

 

 いつの間にか英語の試験が終わっています。この教科は苦手なので、いつも通り点数があまりありません。そういうことで、ここでは話題になりません。

 さてさて、話はいよいよ本命の、数学の試験でありました。得意であるこの教科、目標点数は80点以上。気合いも入って一問目。いつも楽勝の「確率・統計」の問題です。

解けない。

 実は、「確率」の問題が解けなかった体験って、今までなかったんです。

30分経過。

 試験時間は120分です。6問あるのに、1問を解けないまま30分が過ぎてしまいました。

(落ちるかも)

 禁句である発想が脳裏に。

 瞬間、

 どきどきどき。

(「パルス上昇! シンクロ率、40を切っています」)

(別に落ちてもいいじゃないか、冷静に)

 どきどきどき。

 どきどきどき。

 気のせいかぼーっとしてきた気がします。

 鉛筆を持っている手に感覚がありません。

 部屋が暑い気がする。

 どうも本当に気分が悪いらしい。

(「駄目です! 反応ありません」)

 ええ、手を挙げましたとも。

 気分が悪いって。

 まさか廊下にねっころがることになるとは思いませんでしたが。

「貧血ですね」

「あ、これが貧血なんですか。初めてです。」

「他の場所で受験させてもらえませんか」

「それはちょっと無理です」

 というやりとりも、廊下にねっころがったまま。

  俺は廊下に寝に来たんじゃない

 

 という憤りを感じる余裕なんか、すでにありません。

「ああ、これが貧血という物なのか」

ということを思い、口にも出したような気がする。

 

涼しい風に当たってしばらくして、

どうやら心臓の鼓動も安定してきました。

そうですね、そとで受験できないなら、教室に戻るしかありません。

試験時間は、あと60分。

 

教室に戻って。

くるくるくる。くるくるくる。

なんか、鉛筆回してた記憶はあるなあ。

 

(何も考えられない)

 

 

 

 

 

 

 

試験時間は終了です。

さすがにこれではなすすべがない。

「今年も、後期試験か。」

という思いをかみしめながら帰途につきました。

 

 

 還ってから、家族には、「貧血起こして倒れたから、前期はもう駄目でしょう」ということをしゃべったんだと思う。あんまり覚えてないんだけど。

 

 翌日。まだ入試は続きます。気分はすっかり模擬試験。

昨日落ち込むだけ落ち込んだから、結構気が楽でした。

まずは国語をさらっとかたずけました。

 次。最後の試験、理科です。理科では物理・化学・生物・地学のうち2つの選択です。僕は物理・化学を選択していました。化学が得点源で、物理はまあ、それなりに。という方針でした。

 結論から言ってしまうと、120分の時間中、90分で終わってしまいました。普段は、120分でも絶対に終わらないのに。うーん、ハイな気分で、ある意味ものすごく気楽に受けたのが功を奏したのでしょうか。

 

 何はともあれ、後期試験に向けての勉強です。

 結構まじめに勉強していました。

 

 

 が。受かっちゃったんですねえ。

 掲示板の前で10分は呆けていたと思います。

 思いっきり気が抜けました。

  1. 採点ミス
  2. とにかく点数が足りた

 どっちだったのかは、今もって分かりません。

 まあ、どっちでもいいでしょう。今となっては。

 

 当時の検討では、2、も充分にあり得るという結論に達した。英語50点、数学10点、国語60点、理科100点で220点。これだけあれば足りるだろう、と。つまり、これで数学をいつも通りとれていれば、理科3類も不可能ではない、と。この計算をしたとき、「ああ、理3生もふつうの人間なんだ」と心から思いました。これはまた別の物語。

 

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