秋の夜は長い。友人と酒を飲むには最高の季節である。今日も友人と酒を酌み交わしていた。そこで、つい朝の出来事を語ってしまったのである。
「駐輪場の期限がきれててさ、赤い紙を貼られていたんだよ」
「更新していないのか」
「いや、更新する意思はあるのだけど、なかなか難儀でな」
難儀なのはこの駐輪場のシステムである。これがまったく腹立たしいもので、切れた堪忍袋が蘇生する暇もないものだ。まず、料金の払い込みは1月または3ヶ月単位。料金を販売機で支払うとその期間分のシールがでてきて、これを自転車に張り付ける。そういうシステムだ。
「自販機でいいんだったら別にいつでもできるだろう」
「ところがそうではないのだ。自販機は、各月の20日から翌月5日までしか動いていないのだ。しかも、彼らはシールのチェックを5日以降にやる。そして、5日の夜にはすでに販売機は稼働していないのだ」
「それはひどいな。なぜそんな中途半端な期間しか稼働していないのだ」
「なにしろその駐輪場は、1日から末日の月単位でしか登録できない。だからだ」
「うむ。それは言語道断だな」
納得してもらっていい気になると同時に、たまっていた不満を語り始めてしまった。そもそも今の駐輪場、もともとは野外の吹きっさらしで、年間5700円と、破格の値段であった。それを、「老人の雇用を増やすこと」を第一の目的にして屋根をつけて料金を高くしたのだ。現在、月1700円である。これが一番腹立たしいのはいうまでもない。
いったい誰がこんな劣悪なシステムを考えたのだろう? ということを考えると、どうも「利用者を減らすために」つくったルールとしか考えられない。きっと役所でこんなやりとりがあったのだろう。
「どうです、この不便なシステム。きっとこれで利用者がへりますよ」
「全くだ、幹事長も感じちゃうくらいすばらしい」
「なにをおっしゃいます幹事さん」
「おまえもなかなか悪知恵がはたらくのう」
「あなた様こそ」
……想像が飛躍し始めたところにつっこみが入った。
「……老人たちの雇用が第一目的ってことはさすがにないだろう。市役所もそこまで暇じゃない。それにだな、駐輪場利用者を減らすってことは、違法駐輪を増やすってことだ。市役所もそこまで馬鹿じゃない」
「じゃあなんであんなシステムを」
「それを『お役所仕事』っていうんだ。彼らは規則正しくない生活という概念がない」
「……ああ、なんだか異常に説得力を感じるな」
その夜、自転車は違法駐輪車回収トラックによって拉致されていたわけだが、それだけはどうしても言えなかった。
夜はまだ続く。
第5回雑文祭の縛りに乗った中では一番スタンダードな一本です。