第78回「レトロタイムス」(01.09.17)

かしむかし、あれはいつのことじゃったか、わしとばあさんが庭の芝刈りをしとったんだ、ああ、戦争の前にはそこにもだんな庭があってな、私とばあさんはまだ若くてな、芝のこーとでテニスなんかしたりなんかして、なあ、ばあさんはてにすうぇあなんてきて、あの、すこーとっちゅうのはえかったなあ、ああ、あのころのばあさんはべっぴんじゃった……ああ、てにす、そう、芝刈りをしとったらテニスボールがおちとったんじゃ、かたしわすれかんか思うてひろったら、中になにかはいっておってな、動きだしたんじゃ、怖くて放り投げたらばあさんが、なになさっているんですか、とボールを拾ったかと思うとひゃっほう、と叫んで放り投げる、虫にしてはなんか重いし、怖い物見たさで包丁で切ってみると、飛び出したのはちっちゃいガキ、玉から生まれた玉太郎、お約束っちゅうんか、わしらも浦島とか桃とか赤とかそういうの知っとんたんでそういう名前にしたんやけど、手にはラケットをにぎっとってな、どうやっても離さないいんじゃ、にぎってはなさないってなんかいやらしいな、ひっひっひ、でな、玉太郎、お約束通りぐんぐん育って一ヶ月で大人になったんやけどな、ラケットまで一緒に大きくなるのにはさすがのわしも驚いた、大人の玉太郎がいうには、世間に出てテニス世界ランキングトップになって、その賞金をもちかえるなんてほらをふく、そんな玉から生まれて1月で大人になったからだでは、わしとばあさんのダブルスにもかなわんかったはずなのに、と思ったけれど玉太郎は振り切って出ていった、じゃがもしかするとお約束で玉太郎はテニスがものすごく強いのかもしれん、ところがどっこい、知ってのとおり戦争がおこる、テニスの試合なんておこなわれなくなった、それを知らされた玉太郎は怒り心頭、鬼とよばれる敵地、玉太郎に言わせれば敵の島にのりこむことに、乗り込みかたがまたすごい、空飛ぶ気球、爆薬こそつんでなかったけれど気球に乗って、ペットの犬といっしょに旅だった、災難だったのは犬で、いきなり高いところにとばされて、しかも島ははるか先、さんざん怖い思いをしたうえに最後は道中の食糧になったんじゃ、犬はどこで食っても旨いものじゃが、空中で食われた犬はあいつだけじゃろ、まあなんとか玉太郎、はるか東の島にたどりつく、ラケット片手にした玉太郎、じゃがその島には鬼なんぞおらんかった、無人島っちゅう奴じゃな、しょうがなくラケットぶんぶんふりまわして島をまわる、そこにはゴリラが居た、相手にとって不足なし、といさんでラケットで戦う、ゴリラは強くて玉太郎、当初の目的忘れて夢中になって戦う、ゴリラは強かった、ぶんと振り回す腕でラケットはおられてしまう、ところが玉太郎、おれたラケットをゴリラのめに突き刺すんだからたまらない、ゴリラは倒れ、玉太郎すっきり満足、帰りの食料ができたってんでかえってきちまった、かえってきたのはべつに良かったんじゃが、話をきいてわしぁすっかり力が抜けちまったね、ま、人を殺さずにすんだんでめでたしめでたしっちゅうところかな、戦争なんてとっくにおわっとったし、な。

っかいめの放送はこんなシロモノだったが、昔語りをライブで放送する番組「レトロタイムス」は好評をもって迎えられ、それによって語り手のレベルも年を経るごとに上がっていった。

れから長い年月がすぎた今もこの番組はつづいていて、来週は「こうのとりは卵を産む」「隣のキャベツはよく虫食うきゃつだ」「ヘンデルとグレートな遺伝」の3本だ。

がんぐ。


この文章は赤ずきんちゃん☆オ〜バ〜ドライブの40000ヒット記念雑文企画の余興です。厳密には「あなたの地元について文頭作文」という条件を守っておりません。筆者は現実においてもWeb上においても「地元が無医村」という属性をもっておりませんので。なお、いうまでもありませんが、サザエさんはりっぱな昔話です。

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