第63回"「夜のくもざる」"(00.12.31)
僕の目の前には二冊の「夜のくもざる」があった。
そのこと自体はべつに珍しくもなんともなかった。僕はそういうことを
してしまうたちなのだ。でも、二冊が両方とも女の子であることに気づいたとき、
「これは面倒なことになる」と思った。
そのとおり、彼女たちは僕を問いつめはじめた。
「私のこと好き?」
「私のこと好き?」
ちょっと考えて、一番いいと思った答えを口にした。
「うん、好きだよ。君たちがふたりでここにいるように」
その答えは、彼女たちのお気に召さなかったらしい。
「ひどいわ。ふたまたかけておいて好きなんて」
「ひどいわ。ふたまたかけておいて好きなんて」
「だって、君たちは同じじゃないか。」
「こんなにちがうじゃない」
「こんなにちがうじゃない」
「ふたりともおなじ「夜のくもざる」じゃないか」
「私は彼女みたいにすれていないわ」
「私は彼女みたいにすれていないわ」
「わたし、いちどしか読んでもらってないわ」
「わたし、いちどしか読んでもらってないわ」
「ひょっとして、いちどだけのあそび?」
「ひょっとして、いちどだけのあそび?」
僕はため息をついた。何を言ったところで彼女たちには通用しないのだ。
「夜のくもざる」は大好きだけれど、ここまで騒がしいとちょっと困る。
隣の松永君からも苦情が出るだろう。
途方に暮れた僕は、二冊を長沢さんと高宮さんにプレゼントして、
もう一冊「夜のくもざる」を手に入れた。
この「夜のくもざる」は男の子だから、しずかに同居するにはちょうどいい。
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