ここしばらくのパリーグの首位争いは野球ファンにとってはたまらないものであろう。一方、足踏みをしているヤクルトにやきもきしているファンも少なくないであろう。私自身はまあ、それほど興味はないが、「国民栄誉賞」とか「ミスター」といった単語をすっかり負の向きの形容としてとらえてしまっているのは一面の真実である。
まあそれは本題ではない。私が野球の「ゲーム差」なるものを知った頃からずっと、パリーグとセリーグでは順位の付けかたが違うものであった。パリーグのルールはずっと変わっていない。引き分けを無視した勝率だ。これはシンプルである。
一方、今年から引き分けが存在するようになった(以前は再試合)セリーグはやや複雑だ。基本的には勝利数で判断する。つまり引き分けと負けは自身のみ考慮する場合は等価だ。しかし、首位だけは違う。勝利数一位のチームがパリーグ同様の「引き分けを無視した勝率」も同時に首位でない場合は、両チームでプレーオフを行うことになる。……これは非常にわかりにくい。あれだけメジャーなスポーツでこれはないだろう。
一方、パリーグ方式にもいちゃもんはつけられる。"1勝2分"の方が"2勝1敗"より評価が低くなってしまうのだ。「引き分けはそれくらい価値があるものだ」と言い切ってしまえばそれでも良いのだが、サッカーの「勝ちは勝ち点3、引き分けは勝ち点1」と比べるとパリーグ方式は引き分けの評価を高くしているのだ。
パリーグ方式ではどれくらい高くしているのか? パリーグ方式は「引き分け以外の勝率を維持するのと同じ価値がある」と評価している。つまり、
引き分け以外の試合が全て勝ちなら「勝ち続けるのと同等」
引き分け以外の試合が5分5分なら「1つの引き分けが0.5勝分」
引き分け以外の試合で負けっ放しなら「負け続けるのと同等」
ということだ。
もう少し考えてみる。勝率6割のチームにとって、3勝2敗と5引き分けは等価だ。一方、勝率4割のチームにとっては5引き分けと等価にあるのは2勝3敗という負け越しの数値である。
ざっくりというと勝てば勝つほど引き分けの評価があがるという確率変動システムを採用していることになる。これはどうなのか。縞模様のユニフォームのあの球団にとっては悪夢ではないだろうか。負ければ負けるほど引き分けの評価も下がるのだ。
首位争いのチームにとっては引き分けは「勝ったり負けたり」より遙かに良い結果で、最下位争いのチームにとっては引き分けよりは「勝ったり負けたり」の方が良い。
だから、厳密にはパリーグ方式の引き分けの評価が高いというのは厳密には嘘であった。サッカーの場合は「3分け」と「1勝2敗」は等価だが、勝率が1/3を切っている場合は「1勝2敗」の価値は「3分け」を上回ることになる。ましてや負けっ放しのチームなら。
では、成績にかかわらず引き分けの価値を固定するにはどうしたらよいか。「引き分けの試合」を母数から除く限り、完璧に平等にすることは実はできない。幸いにして、試合数が全球団同じであるため、勝ち点制にすればどのチームにとっても引き分けの価値は固定することが出来る。「率」という魅力的なパラメータを失うという代償はおおきいが。
勝ち点と言う代わりに、引き分けをx勝分とカウントすると言い換えても良い。その場合のxに何を入れるかは考え方次第だ。まあ、0〜1の間をとびだされるとちと理解に苦しむが。
1)勝利数至上主義
今年のセリーグ方式からプレーオフを取り除いたものだ。この場合0点になる。
2)引き分けは勝ちよりは負けに近い
この場合サッカーのように1/3点くらいの値となる。
3)引き分けは勝ちと負けの中間になる
このばあい0.5点になる。
4)現行のパリーグ方式に近い値にする
これはとても異論が出そうだが、この場合は0.6点となる。何故か。だいたい優勝チームは130試合のうち78勝前後する。この場合、引き分け2試合の価値は78勝=勝率6割を維持するのと同じ価値を持つ。だから0.6点だ。最下位争いの際に引き分けの価値を過剰に判断することになるが、それはまあ、どうでもいいことにしましょう。
この考え方をすると本来0.4勝の価値しかなかった引き分けがその1.5倍の価値を持つことになるのは見逃せないけれど。
と、ここまで考察することがようやく一つの真理を得ることが出来る。
「今日は引き分けにしといてやる」という捨てぜりふは、万年負けっぱなしのチンピラ(パリーグ所属)あるいは悪の組織にとって、論理的に正しいのだ。もう、一部のスキもない。