詰将棋の誕生などのお話

詰将棋の誕生である。「将棋無双」「将棋図巧」を読み解く本の体裁をとっているが、私はちょっとずれた読み方をした。見当違いな可能性はあるし、恥ずかしい思いをするだけかもしれないが、それでもちょっと書いてみたい。

基本的には「詰むや詰まざるや」を読み解く本だ。が、まえがきでも

わたしがここで論じていることは、『無双』や『図功』の、そして詰将棋の、ごく限られた一面にすぎない。

と言っている。つまりこの本というのは、「詰将棋の研究や論考はこういうふうにやるんだよ」という指南書だ、と私は受けとった。ひとつの作品集、たとえば「詰むや詰まざるや」を語るとしても、表層的な手順にとどまるものが多く、手順の意味づけに踏み込めていないとか。作者を縦断して時代を語るとか、そういう試みはそもそもほとんどされていないとか。

考えてみれば「この詰将棋がすごい!」だってそういう雰囲気がある。で、それをやらないと「新しい」ってわかんないよね、と。例えばある構想を飛車でやったひとがいました。それを見て角でやりました、というよりは違う意味で似た手順を飛車でやりました、のほうが新しいはずなのだけれど評価されやすいのは角でやってみたほうかもしんないとか。

なので、この本に真摯に向き合うなら、テキストを教科書にして研究をトレースするのもひとつの考え方だが、テキストを超えてなにかの研究をしてみることだと思う。そのために「こんなテーマはいかがですか」みたいなフリすらある。中合とか。

で、私は「じゃあフェアリーは?」と考える。フェアリーについてはもっと漠然としている。「これはいい手だ」「いい作品だ」というモノサシ自体はっきりしたものがないし、それが良いことなのか良くないことなのかすらわからない。割と個々人が楽しかったり楽しくなかったりして完結してしまっている状況なんじゃないかと思う。

私が使う言葉では「ウェルメイド」(既知の手順の組み合わせだが見せ方が綺麗、というニュアンス)とか「新しい」(基本的には見たことないもの、もしかすると新しく見えるだけかもしんない、という恐れはあるけど)とか。

前者はたとえば密室もののよく出来たやつ。そもそもフェアリーでは◯◯ものというくくりがあまりないけど。あるいはフェアリールールを既知の使用法で鮮やかに使ったとか。

後者は例えばcheckless chessのフェアリーメイトを見せてもらって私は新しいと思ってしまったが実際には1950年代のお話だったとかそういうの。

ええとつまり、個々の作品レベルでも鑑賞は詰パラやWFP作品展の解説がほとんどで、多くの人は語る言葉を持ち合わせていない。時々単発の作品展だったり駒井めいさんのめいマガだったりフェアリー入門だったり、ようやく広がりつつあるのかな、という状況なのかな。そこにこのブログを挙げて良いのかはちょいと心もとない。

ましてや複数作品を縦断して語る、なんてのはもうほとんど例がないと言っていいだろう。そして、それが良くないことなのかどうかも私には判断できない。ただ、新しいものを見たい、作りたい、という場合にはあったほうが良いのだろう。

そういう視点でも、たくぼんさんのアンチキルケ作品展から始まった一連の特定ルール作品展、あるいはフェアリー入門は素晴らしい試みなのではないか。少なくとも同じルールで、そのルールのキモを確認しあうという意味で。無意識でも同じルールでの作品の良し悪しを考えるきっかけになると言う点で。

蛇足だけど一応。みんなが作者になる必要がないように、みんなが雄弁な鑑賞者になる必要もない。作品ならぬ問題に対峙する回答者でもいいし、楽しく並べるだけでもいい。ただそういう楽しみ方もありますね、というだけ。そもそも私も自分のスタンスがはっきりしていない。まあでもこんなブログをやっているわけで、鑑賞者よりだとは思う。

ちょっと話はそれるが、フェアリーの評価で気になったこと。Xでも書いたが、フェアリーは「指がしなるような一手」みたいな「強度の高い一手」に関しては伝統ルールに劣るのではなかろうか、と。合駒、限定打、遠振り、捨て駒、こういった強烈な一手の強手感がすこし、いやだいぶ薄いんじゃないなかあ。

そのため伝統ルールみたいに中合動かしがはやったり、ということが起きにくいのではないかと。作者の少なさやルールの多彩さが原因なのかもしれないけれど、詰パラでもそういうはやりは感じない。

それでも手順全体に対するワンダーはフェアリーのほうが上だと思っているのだけれど、それを言語化するのが概念ではなく具体的な個別の作品になってしまうのだ。

まあそれはさておき、「指がしなる一手」というお題でフェアリー詰将棋のコンクールは成立するんじゃろか、という妄想。予防線をはると主催はご勘弁。でも指がしなる一手は見たい。わがままをいってこの稿おしまい。推敲すると消しそうなのですぐ公開。